些細な仕事にも誠実に取り組む姿勢を。

与えられた仕事に不平を鳴らして、口に出してしまうのはもちろんダメだが、「つまらない仕事だ」と軽蔑して、力を入れないのもまたダメだ。およそどんなに些細な仕事でも、それは大きな仕事の小さな一部なのだ。これが満足にできないと、ついに全体のケジメがつかなくなってしまう。

大きな仕事を成し遂げるには、小さな仕事の達成を積み重ねる必要がある。どれほど些細であろうと、一つ一つを忠実にこなさないことには、目的地に辿り着くことはあり得ない。

私は仕事柄WBS(Work Breakdown Structure)というツールを多用するが、なるほどこれらを達成すればするほどに大きな成果に繋がるのだと深く実感している。だからこそ1つのタスクがいかに小さくとも、いかにショボくとも丹精を込めてそれに取り掛からなくてはならない。

確かに最初は庶務だの他部署への照会対応だのと、一見なんの成果にもならなそうな、無意味にも捉えられる仕事ばかりやらされたものである。とはいえ最初はそう思ったものの、後からそれらの仕事は意味のあるものだったのだと幾度となく気付かされたものである。あの時やっておいたからこそ今に繋がったものは多くある。

昔の言葉に「千里の道も一歩から」とある。たとえ自分は、「今よりもっと大きなことをする人間だ」と思っていても、その大きなことは微々たるものを集積したもの。どんな場合も、些細なことを軽蔑することなく、勤勉に、忠実に、誠意をこめて完全にやり遂げようとすべきなのだ。

新人の頃は「大きな仕事を成し遂げてやろう」と意気込んでいた。だからと言っていきなり責任の重い仕事を任されるはずもない。当然である。だからと言ってそれに不満を持ってはならない。

責任の重い仕事を任されたこともあるが、どのように進めて良いか分からず右往左往した経験が何度もある。それは中々に辛いものであった。スキルだけでなく、精神の向上が伴っていなければ、仕事は上手く進められない。自分の能力以上の仕事は、やはり完遂できない。ならば今は自分でこなせるであろうギリギリのタスクを、誠実に、必死に取り組むだけである。

成果をあせっては大局を観ることを忘れ、目先の出来事にこだわってはわずかな成功に満足してしまうかと思えば、それほどでもない失敗に落胆する――こんな者が多いのだ。

これは仕事に限った話ではない。実際、目先の甘い話に釣られて失敗する人は多い。特にお金が絡むと、人はたちまちと盲目になってしまうものである。そのような状況に陥らないためにも、自分はどう生きるべきか、使命は何なのか、よく考えておかねばならない。この行いが志や信念を生み出す。そうすれば、たとえ困難に陥ろうとも道を踏み外すことは無いのだろう。

現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書)

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